人生の転機における私を取り巻く様々な感情 ②
感動の涙と幸福の絶頂の第一子の誕生と思いきやストレスや怒りに支配されていた実情を書いた①に続き時系列が多少乱れたりしながら続編を進めよう。
バイキン扱いされ、マスクを付けて四六時中鼻をかんでうがいをしながら本を読んだりYoutubeを見ながら赤ちゃんと妻の世話を見る病院での数日がすぎていった。両親は赤ちゃんの顔を見るためだけにわざわざ来てくれて、多少の小言は言われるも害のない友好的で建設的な面会であった。なによりここに書いてきたような不満をぶちまける相手ができたので大変助かるガス抜きになったし、娘のことをかわいいかわいいと言ってくれることでこっちもとても嬉しくなった。ありがとう!
土曜日に入院し、日曜日の夜に生まれ、いろいろあって木曜日11月1日。最後に出社したのは入院の前日の金曜日だが、正式に退社しました。
Lyちゃんと結婚しようと思ったのは就労ビザが要らなくなるということも少なからずあり(結婚というあくまで事務手続きの必要性を鑑みた故のはなし)、就労ビザをやめたかったのは仕事から自由に自分の人生を決められるようにしたかったからということもあり、そんな話は2年近く前から考えていたわけで、つまりいつでも会社はやめてやるぞ!っと鼻息荒かった(わけではない)というより、いつが辞め時かな〜とはずっと考えていた。会社のためやボスのために働くというよりは、自分が関わっているプロジェクトのために尽力するというのが自分の仕事の矜持故、稼働中のプロジェクトがある限り大いに張り切って仕事をしてきたわけである。コロナ期間を含むこの5年半で幸いなことに一度もプロジェクトが途絶えることがなかったので、不満とかはストレスはありつつも楽しかった。ところがここ最近は、アソシエイトという役職を仰せつかって若く小さい会社の中間管理職になったので仕事の質が変わっていた。自分で手を動かすことはめっきり少なくなり、その代わりにヤングたちに指示をして確認して、報告して、みたいなことばかりで正直あまり面白くなかった。とはいえ、それはプレーヤーからマネージャーへの以降の際に誰しもが感じることだろう。なので、せっかく頂いたこの機会を活かそうと思い、自分がボスになったと仮定して仕事をするように意識を切り替えた。ヤングたちをなだめたり褒めたりしながら自分のデザインや思考を巧みに刷り込み実現させることが面白くなってきたところだったのだが、ヤングが優秀過ぎるとあれ、アイツ要らなくね?と思われているのが肌で感じられ肩身が狭い思いもしはじめた。そんなことを思いながらTPHとSTHをなんとか竣工まで持っていき、安堵したのだが、その前に仲の良かった子がだいぶ疲れた様子で辞めていった。これには結構応えた。仲間というか同志みたいなひとが去っていったという気持ちになっていた。
話が横道にそれてしまったけど、自分の仕事は自分で見つけなアカン、ということでここ数ヶ月はクライアントワークではなく、会社に対してなにかできないかといろいろと勝手に仕事を作り出していた。経営に口を出してみたり、BIMのシステムとかライブラリを更新したり、デザインブックを作ったり。で、ある程度楽しくやってたのだが、大きな疑問が浮かんできた。あれ?なんのために頑張っているのだ?誰のためにやっているのだ?そう、この仕事は会社のための仕事だったのだ。自分の会社なら意味がわかるのだが、会社のための仕事をしていると理解した瞬間、中間管理職の仕事もまた会社のための仕事だとわかってしまった。そう、勝手に自分で仕事を作り出して、その仕事が自分の矜持に反するものだと気付き、自滅した。ボスには本当に申し訳なく思っている。とまれ、これが退職の最大の要因というわけではない。
最大の理由は娘が生まれてくること、その面倒を自分で見たい、ということだ。妻が実家に戻るとか、故郷から助っ人がやってくるとかいろいろと話し合ったが、当時お義母さんの様子がおかしかったこともあり、他人に任せられないし、何より自分でやってみたいという気持ちが強まっていったのだ。
とはいえ、その他にもトリガーがあった。高校時代の友人ヒカルくんと話したとき、最近友人になったひとと話していたときに子供が生まれてくるからあと数年は働いて安定してから色々挑戦をしようと思っているみたいなことを自分で言ったそばから嫌気が差していた。なんだよ、言い訳ばかりじゃないか!って。ダセぇ!と。そこからはすぐやる、必ずやる、出来るまでやるということで会社に相談し、一ヶ月後には退社していた。めちゃくちゃ理解があって全然止めようとしないボスとヒエンさんにはちょっと拍子抜けしたが、色々考えると気持ちよく送り出してくれたのだろうと感謝の気持でいっぱいだ。
いつ子供が生まれるかわからないということで、会社が早めに送別会を開いてくれた。前のスタッフなども来てくれて大いに盛り上がった。かなり楽しくなって飲みすぎてしまった。
飲み過ぎたらリビングで寝るという約束を忘れてベッドでぐーすか寝てしまった。早朝に起きたらベッドに一人だったのでリビングに行ってみたら妻が普段つけないエアコンをつけてソファで寝ていた。あぁ、やっちまったと思いながらも可愛らしい妊婦の姿をみてにっこりしていた。スミマセン。
そのときに携帯を見たら同僚の一人が昨日事故を起こして病院にいるとのメッセージが。同名のインターンがいるのでどっちかな、なんて思い二日酔いでこっちはそれどころじゃないんだよ、寝かせてくれというとんでもない態度で寝た。
明朝会社に行ってみると同僚がいない。ミーティングで峠は越したと報告があったのだが、その二日後に彼は亡くなった。送別会で飲んでバイクで帰って電信柱に激突して死んでしまった。妻が妊娠しているということで彼の葬式にも行けなかった。自分が会社を辞めるから死んでしまったと言ったら飛躍しすぎているのだが、責任を感じてしまうし、とにかく楽しく飲んでいた彼を見てからもう会えなくなってしまったので現実を受け止めたくないし、受け止められなかった。そして、これを出産直前の妻に伝えるわけにもいかず、友達や家族にも伝えるのも気が引けて、結局自分ひとりで抱え込むことになった。抱え込むという表現は少しおかしいのだが辛いことがあった時に他の人に打ち明けられないときの辛さがよくわかった。飲み会の席で彼と飲んだときには新しくできた彼女の話をしていたのだが、後から聞いたらこの彼女は実は婚約者だったそうだ。もしかして妊娠していたりするのだろうか、などと考え始めたら可愛そうで仕方ないのだが、その確認は怖くて誰にもできていない。
数日後に娘が生まれた。
幸せの絶頂、とはいかなかった。
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