警察に連行された話

地元の友だちの結婚式があるので一緒にホームタウンに帰ろうというLyの提案をのんで正月明け2日から3泊4日でThanh Hoaに行ってきた。

2日目の晩は飼い犬に噛まれるアクシデントが発生し、かなり沈んでいた。

3日目の晩、地元特産の柔らかい魚を市場で買ってお母さんにスープを作ってもらっていた時に来客があった。

お父さんと一緒だったので、またどこかの親戚かなとか思っていたら全然ニコリともしない人で感じ悪いなとか思っていたら、ここに来て話しましょうということで、話というなの面談が始まった。

彼は近所から通報があって人民委員会から来た人なのだった。

Lyが去年のロックダウン直前に帰ったときも随分と苦労をしたという話を聞いていたので、ああまた同じことか、まだやってんのかい、と思って聞いていた。内容はほぼ全くわからなかったが。

後に聞いた話によると、近所の誰かが、あそこのうちの娘はハノイで白人の下で働いているが、そのボスの白人がコロナにかかって仕事がなくなったから帰ってきたとかなんとかっていう話をでっち上げて、それを調査しに来たというのだ。


なので、序盤は彼女に対する職務質問ばかりだったのだが、あれ隣りにいるこいつはなんだ、ということで途中から矛先がこちらに向かい、やれ書類を出せ、やれ名前はなんだとかって始まった。

実は一日前に彼女のお姉さんが嫁いだ家に遊びに行った時にパスポートを入れたかばんを置いてきてしまったので、それがまた問題になった。自分としては普段持ち歩かないパスポートを今回持ってきていただけ非常にラッキーだったと思っていたのだが。今回パスポートを持ってきたのはつい2,3週間前に事務所に警察がやってきて色々と質問をしてきたことがあったのが原因だ。その時パスポートを出せと言われたが持っていないので罰金を課されそうになったのだ。

アパートのオーナーが警察に提出すべき書類も提出されていないとか、そんなことも調べられていて、実際のところオーナーがパスポートナンバーを記載間違いしていただけだったのだが、そんなこんながあってこれはちょっと気をつけないといかんな、と思っていた矢先だったのだ。

やはり自分は実についている。

あとから聞いた話によると、あのときパスポートを持っていなかったら逮捕、勾留されていたとのことだ。トホホ


話をあの時に戻そう。

人民委員会のおじさんの職務質問と説教がようやく終わったかと思った頃に今度は小綺麗な格好をした40歳前くらいの女の人とその旦那と思われる人とその子供が現れた。流石にこれはもう親戚の集まりじゃないなと思っていたら、何かの書類を読み上げるかのごとく姿勢を正して滔々と喋り始めた。Lyは怒っているようだった。数分の議論の末彼女はすぐに去っていった。もちろんその家族と思われる優しそうな旦那とその子供も一緒に。


その後、警察に行かなければならないかもしれないとかなんとかと言っているとピーポー言いながら青い回転ランプを付けたバイクが入ってきた。警察官2人が来た。

人民委員会のおじさんから事情を聞いた後、再び同じような職務質問が始まった。

彼らは太ってハゲ散らかしてニヤニヤしている中年の能無し警官といった風貌だったがあとから聞いた話によると、逮捕するとかなんとかって結構脅されていたらしい。

その後、Lyと自分は警察署に連行された。

連行、と言っても車に乗せられるわけではなく、自分たちのバイクで警察のバイクと人民委員会のおじさんのバイクの間を走って行った。

ここでもまだおちゃらけ気分だった自分は彼女を励ましたり手袋をはめてあげたり、冗談を飛ばしていた。


警察署では部屋に入ることもなく、廊下のようなところで(こっちの建物にはエントランスとかそういう概念がないので外廊下に各室が面しているという感じで、廊下と階段下(もちろん室内的なポジションだけど温熱環境的には完全なる外部)の間みたいなところで)小太りの中年のおばさんが待っていて書類に書き込みをしていった。これがまた鈍くてどうにもならない。たった二種類の簡単な書類を二人分書くのにたっぷり三十分はかかっただろうか。

それらにサインをして、ようやく終わったかと思っていたら今度は別の場所に連行されるということで道の向かい側にあるこれまた立派な警察署に連れて行かれた。

そこで、Lyとお母さんは(お母さんは1つ目の警察署で書類を作っている間に自転車で応援に駆けつけてきてくれた)お姉さんの家まで自分のパスポートを取りに行ってくれた。その間自分は特にやることもなく部屋の中でおとなしくしていた。

警察官というと、一人はFacebookをだらだら見ていてもうひとりはその同僚のハゲ散らかした頭を映しながら誰かと電話している。まったく呆れたものだと黙ってみていた。

その後、彼女たちが帰ってきてすぐにちょっと若め(自分より若そう)の警察官2人がやってきた。かれらは先述の2人よりも濃いめの制服を着ていた。肩の星の数は少なかったがパット見でエリートっぽく見えた。

またしてもおなじ職務質問が続き、若い警官の星が一つ多い方が非常に美しい筆跡で調書を書き上げている。もはや芸術的なまでに美しく書いているため非常に時間がかかる。おそらく美しい文章にするためには推敲の時間も必要なのだろう。そんな空白の時間ができると隣の小太りの若くて星が一つ少ない方の警官が世間話や冗談を飛ばしてくれるのでなかなかフレンドリーな雰囲気であった。

その時もずっとお母さんは隣りにいて喋ったり冗談を言ったりしてくれていた。

そんな時に家から酔っ払ったお父さんがやってきてなにやら外で叫び始めた。

それを聞いた女二人はすぐに怒鳴り返している。警察官たちもちょっと落ち着きがなくなったようだ。

あとから聞いた話によると、酔っ払ったお父さんは、同じような年のくせにこの警官は星がいくつしかない、大したことがない警官だ、とか言っていたそうだ。

お父さんもお母さんも手段は違えど、非常にアナーキーに私達を擁護してくれていた。

そんな気持ちを感じて少々うるっとしていた。(その時はお父さんがそんなことを言っているとも知らず)


ようやく全部が終わってお金の話になった。

ここの書類のここに記載がある通り、500K〜4Milの罰金が課される、と。

現金は2Milくらいしかなかったので困ったなと思っていたのだが、Lyとお母さんは払わないようになんとか切り上げようとしているようだ。

結局金額がわからないまま開放されて、すぐに家に帰った。

結局3時間くらいこの騒動に時間を費やしていたようだ。

家についてから罰金の額を聞くと1.25Milという。それなら手持ちの現金でなんとかなるじゃないかということで引き返そうとしたがときすでに遅し。

結局お母さんが次の日にここより遥かに遠い警察署まで行って払わなければならないとのこと。


楽しみにしていた魚のスープの夕食にありつけたのは9時半過ぎだった。普段は9時には寝ている家なので、非常に遅くまで付き合わせてしまったことに申し訳がなかった。


ひとつ付け加えたいのは、Lyの家族が徹底的にこんなにも家族+他人である自分を擁護するために尽力というか応援をしてくれた点である。彼女の家族は貧乏で近所の笑いものにされている(真偽の程は確かではないが)のだが、そんなことは関係なく、自分の娘とその彼氏に対しても警察や人民委員会に対して真っ向から対立する姿勢を保ち、それを真正面から態度で示していた。自分がそんな状況に置かれたらどんな対応を取るのだろうかと考えただけでも恥ずかしい思いを想像してしまったのだが、後日会った彼女のお姉さんも「警察に挨拶してやったのか」みたいなことを言っていて、この家族の強い意志というか、想いにただただ胸を熱くしたのであった。これは本当にこの下手くそな文章力では言い表せないのだが、それはそれは強い感動を自分の中に刻まれた経験だった。


この一連の騒動を経験して、ずっと頭のなかにあったのがカフカの城とかゴーゴリーの小説に出てくる、必要の無い仕事を作り出す書類を作ることを仕事にしている下級役人たちとそれが社会の歯車になっているとんでもなくバカバカしいシステムについてだ。

ベトナムは何事もテキトーにこなせる感じが暮らしやすいのだが、役所仕事になるととたんに手が負えなくなる。袖の下の文化は当たり前だし、そもそも役所に行くという文化がない。

だが役人は沢山いて、彼らにはなんかしらの仕事が必要だ。

だからこのような途方もなく無駄な仕事、役割、組織編成を作り出しているのだろう。

そして市民はしがない給料からこの無駄な役所仕事のために税金を払っている。

このシステムが続く限りベトナムの真の発展はやってこないだろう、などと大層なことを考えてしまった。


しかしながら、近所の通報があったからこんなことになったということも含めてこの国がコロナに対する統制をきちんととっていて、それが故にこれほどまでにコロナの影響を世界的に見て本当に稀なレベルで国内の安全を保持して、しかも経済発展も可能にしているので、それはそれは素晴らしいことだとも思ったのであった。



後日談:事務所に戻ってきてからアドミンスタッフに本件を報告したところ、それはおかしいということで、この前事務所にやってきた警官に連絡をとってくれた。罰金の件は至極正当なレギュレーションに基づいているとのこと。そのレギュレーションは、外国人は警察に届け出た居住地(アパートなど)以外に宿泊する場合はその場所の警察に事前に届け出が必要で、それを行わなかった場合、宿泊地のオーナーが罰せられる。それはコロナの状況下の特例でなく、昔も今も同じということで、それを知ったときにはこの国が社会主義の国で、統制をしっかりととっているということで、外国人としてこの国に住むことの気持ちを引き締めた。

先述のコロナ関係の件とはコンテクストが異なってしまうのだが、関心した次第であった。

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