The Gentle House / V-Architecture

29.09.2019

建築作品を見に行ったらスケッチをしたり写真をとったり、一緒に行った人と感想を述べ合ったりするが、そのうちすぐにその内容を忘れてしまう。

備忘録と思考の整理のためにこの場でまとめてみることにしよう。

感想だけではトーシローの域を出ないのでしっかりと批評のレベルまで持っていくことをゴールとする。

 

第一回目は先日事務所で訪れたハノイ郊外にあるThe Gentle House

Ngoc Luong Leという建築家が設計した自邸件設計事務所。

ボスいわく、ベトナムで一番良い建築家ということでかなり期待を膨らませて見に行った。

前情報としては、それだけ素晴らしい建築家だがあまりPR活動を行っていないので名が知られていないこと、彼の家族がお金持ちなので彼自身も不動産を所有していて割と好きに設計をしていること、こだわりが強いのであまり作品数は多くない、などのことを聞いていた。

 

写真や図面はArchdailyの記事を参照

https://www.archdaily.com/567952/the-gentle-house-ngoc-luong-le

 

この建築は端的に言うと、パッシブデザインをコンセプトの中心に置きながら、厳格なプロポーションとプランニングで成立させている作品だ。

ハノイ(郊外)にありながら十分すぎる広さの敷地の奥側にどっしりと建つ2階建て。

1階に居住機能をまとめ、2階はすべて事務所機能に充てている。(いまでは事務所は近所に新設し、現在は2階は居間として使われている)

平面は3.3mの正方形を9つ組み合わせた9.9mの正方形の母屋にキッチン及び外部階段が寄り添う。

それぞれの正方形に役割が与えられており、上下階とも奥側の真ん中のマスは既存樹木のためのボイド、その他の8マスは寝室x3、水回りx3、ファミリールーム(おそらくほぼ動線だけ)、そして正面ファサード側の2マスは祭壇に充てられている。

 

1階の階高は2.3mとかなり低めに抑え、2階の階高は3.3mだが方形屋根の下部で外壁(総ガラス張り)部分では1.8mとこちらもかなり低い。しかも深く突き出た軒先があるため実際には内部からも外部からももっと低く見える。

メインの構造はRC造で、屋根架構は鉄骨造。

僭越ながら自分が設計した3層高床式の家に構成が似ていないでもない。が、大きな違いは先述したとおりこの建築はどっしりと建っている。それは地面にしっかりと根をおろして、マッシブな建ち方をしているということだ。

外観はRC造で必要な柱以外はすべてガラス或いは開口部となっており、1階の建具はすべて両開きの扉になっているので全体を開け放つことも閉じることもできる。2階の腰窓は全面ガラス張りでその下は木製の水平ルーバーで覆われた換気窓となっている。腰窓部の外部を日差しを避けるための手動庇が屋根庇の先端から斜めに覆っている。この手動庇は開くと水平になるので光を取り入れるときは全開すればよい。この機構はとても単純だがよく出来ているので庇の開閉に日々のストレスを感じることはなさそうだ。

 

 

謎に思える、あるいは批評的な視点で見た点は以下の通り。

 ①やけに多い水回り

 ②正面ファサード(南西)の前に大きすぎる空っぽの空間(インターロッキング舗装)及び祭壇の位置

 ③本当にパッシブデザインなのか

 ④プロポーションの外し方

 

 

①ここでベトナム独自のプランニングを書き加えておこう。

寝室1つにつき水回りが1つというのはスタンダードで、マンションの間取りでもこれは重要視される。

理由の1つとしてはベトナムでは共働き世帯が多いため、朝の忙しい時間に水回りの取り合いが起きないようにすることが挙げられる。

もう一つの理由としては、こちらの水回りはトイレとシャワールームがセットになっているので、来客があった時に私生活を見せないようにするためとも言われている。

とはいえこの小さな家兼事務所にトイレが4つもあるのは厳格なプラン上のプロポーションを守るために仕方なく置いただけでトゥーマッチな気がしないでもない。

 

 

②ベトナムでは西陽がとても強い。

日本と比べて暑いのは想像に難くないだろうが、午後2時過ぎの暑さはかなりのものだ。

現地の人はこの時間は外を出歩かずに昼寝したり休憩したりしている。バイクで移動することも避ける。ちょっと前まで(8月くらい)は朝から晩まで暑いので特に暑い昼過ぎというのはあまり意識していなかったが、最近朝晩が涼しくなってきたのでこの気候の特徴は強く意識させられる。

この暑さは単純に太陽光だけでなくあらゆるものの蓄熱や放射熱といった複雑な要素があるのだろうが、西陽がとても強烈なのは確かだ。

さて、作品に話を戻すと、この建築は南西に大きく空間をとって建っている。

真夏は北から直射光が入るとはいえ日差しの強い方位であることには違いない。

旗竿敷地の奥側に建物を配置するというセオリーからすれば当然なのかもしれないし、正方形にこだわっているようなのでこの配置は建築が一番きれいに見えてプランニングもしやすいのだろうが、手の込んだ建築の設計だけに、手前の空間がやけに空っぽでぼんやりとしているという印象を抱かざるを得なかった。

日本の若手設計者による住宅で、外構にまわすお金がなくなってしまいました、的なわけではないだろうし。後に聞いた話ではこの大きな外部空間は子どもたちが遊ぶための場所として確保していたということ、そして建築のイベントや展覧会を行っていた、とのことなので汎用性の高い空間を用意したかった、ということで理解できると思ったが、その次に謎に思えたのはなぜ祭壇を広場側に持ってきたのかということだ。

だが、平面図を見るうちに、そして訪れた際に住人の方がそこでゆったりとした時間を過ごしているのを見たことを思い出して、祭壇としての機能というよりも外部空間とつながるための干渉空間として設計されているのだと理解した。

とはいえ、この空っぽな外部空間と建築とのつながりというか関連性、連続性がデザイン的に見えてこないというかあまりにも建築がスタンドアローンな建ち方をしているのではないか、という感想は拭えなかった。とはいえ写真を見返すと地面と建築が連続していて、いまにも繋がりそうな雰囲気を醸し出しているので、これはあくまでも現地で感じた自分の印象に過ぎず、このもやもやを解決するためにはもっと論理的な説明が必要だろう。

 

 

③実際にそこを訪れてみると、確かに外部の蒸し暑さから切り離された、静かで適度に暗く、涼しい空間体験だった。

光の調整で暑さを緩和することができるのは経験からわかっているつもりだったが、ここでは庇の調整やグリッドの中から自分の好きな場所を選べる、というような点で特別なものになっているようだった。そして何より、天井の低さが与える洞窟のような感覚がその涼しさ(涼しそうな気がする印象)を演出しているのだろう。

現地を案内してくれた所員さんによると、外周部からの吸気は十分なのだが、それを抜く排気の処理がうまくいっていないこと、折半屋根からの放射熱で2階は暑いとのことだった。

冷房がない空間でも苦に感じない自分の感覚が故に好印象を抱いたのかもしれないが、もっと快適なパッシブデザインのためにはより洗練された設計が必要とされるのだろう。

 

 

④厳格すぎるプロポーションの外し方

マテリアルが多様なので、ドイツやスイスのマッシブな建築の厳格さとはまた異なるものがあるが、構成だけを見るととても厳格なプロポーションを守っているようだ。そのプロポーションをうまく外しているのが外部の階段と台所のボリューム、そしてやけに大きな軒樋だ。

かなり急勾配の外部階段は使いにくそうだったが、全体にリズムを与えていた。階段奥の台所へとつながる通路を隔てる建具はスカルパ的で、遊びを感じられた。

また、やけに大きな軒樋は落葉の詰まりを意識しているのかもしれないが、ややキッチュな印象を与えながらも独特な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

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