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夜の果てへの旅 / セリーヌ

アマゾンでおすすめされたセリーヌの「夜の果てへの旅」を読んだ。

とにかく陰気で激しくて、暗い、みたいな謳い文句だったのでどんなものかと思って読み始めたが、最初に文体に慣れるのに時間がかかった以外はすんなりと読めた。

戦争の愚かさや人間の凶悪性、環境問題などがやや突飛すぎるストーリー展開の中でこれでもかと喚き散らされる。

個人的に興味をもったのは、①環境問題、②日常の永遠性、③愛、についてだ。

①環境問題

これはハノイの空気汚染が深刻で特に最近は季節の変わり目ということもあり咳をしているひとが異常に多いこと、ジャパンから来た私としては街のどこをあるいてもゲットーと感じざるを得ない諸々すべての衛生環境(避難しているわけではまったくないし、それこそを楽しんでいるのだが)、事務所の近くの河は黒ずみ、夏になると悪臭を放っていること、などなどを毎日感じているなかで、花の都と呼ばれるパリがかつては今のハノイと全く同じような姿だったこと(都市、環境、人間みな)の記述を見て、なるほどハノイも100年後くらいには花の都になれるのかもしれないのか、などと思った。

”界隈の連中はひとり残らず咳き込んでいた。どちらを見ても。煤煙のせいで、お日様を拝むためには、少なくともサクレ・クールの丘まで登らねばならないのだ。 そこまで登れば素晴らしい眺望がひらける。平野の底が僕らの場所、僕らの住む家だということはよくわかる。が仔細にさがすと、わからなくなる、自分の家すらも、それほど目に入るものはすべてみな、同じように醜いのだ。 さらに底には愛も変わらぬセーヌ河の流れが、玉子の大きな白身のように橋から橋へ曲がりくねりながら。”

②日常の永遠性

これに関しては仕事を始めてから(社会人になって)多くの人が感じるであろうものだ。仕事でなくても主婦になったひと、なんかの話や物語は既に多くのものがある。実際に自分もそれを感じるようになってからというもの日常というものは恐怖に思える夜などがあり、そんなときはなかなか眠れないものだ。

この小説の主人公(達)はとにかく日常からの逃避を続けてきた。

”もひとつ悪いことは、前日やったことを明日も続ける力を、どうやって見つけ出せばよいかわからないことだ。うんざりするほど昔からやり続けてきたことを、その愚かしい行動を続ける力をどこで見つけ出すか、要するに、何の成果もない数々の計画、重苦しい宿命から逃れるための試み、常に挫折に終わる試み、どれもこれも、運命は逃れがたいことを改めて確認させるだけの試み。結局、日増しに心もとなく、不愉快になっていく明日への不安に圧しひしがれ、夜ごと夜ごと、部屋の床の上にぶっ倒れるだけが落ちだ。 おまけに年齢というやつが、あの裏切り者が踊りだし、最悪のもので僕らを脅かしかねない。要するに、自分のうちに生命を踊らせる音楽が鳴り止んでしまったのだ。冷酷な真相に包まれたこの世の果てへ、青春は跡形もなく消え去ってしまったのだ。ところで、自分のうちに十分な熱狂がなくなれば、いったい、外へ飛び出したところで、どこへ行くあてがあるのか。現実は、要するに、断末魔の連続だ。この世の現実は、死だ。どっちかに決めねばならない、命を断つか、ごまかすか。僕には自殺する力はなかった。 とすればいちばんいいのは通りへ飛び出すことだ。こいつは小刻みの自殺行為だ。ねぐらと餌ぐらいは、誰にだってなんとかなるものだ。翌日、食代をかせげるだけの力を取り戻すためにも、なんとかして寝付かなくちゃ。気力を取り戻さねばならぬ、明日仕事を見つけるのにかつかつ必要なだけの気力を。そして、すぐまた、翌日に備え、新しい眠りを横切るのだ。だが、いったんすべてに疑問をいだきだすと、まして、これほど肝を冷やした後では、眠ると言ったってそう簡単に行くもんじゃない。”

③愛

主人公(達)は愛に飢えていたのか。この点に関しては意見が別れよう。バルダミュにしてもロバンソンにしてもとてつもなく自己憐憫の強い7歳児程度の精神しか持ち合わせていない、こと愛という概念に関しては。だが、二人が行き着いた先ー性質や性格、アプローチは全く異なるがーは結局自己愛に終始するのではなかろうか。

以前自分が言われたような、「私を愛している自分自身を愛していて、私のことは愛していない」というものだ。

”列車が駅にはいった、機関車を見たとたん、僕はもう自分の冒険に自信がなくなった。僕は痩せこけた体にあるだけの勇気をふるってモリーに接吻した。こんどばかりは、苦痛を、心の苦痛を覚えた、みんなに対して、自分に対して、彼女に対して、すべての人間に対して。 僕らが一生通じて探し求めるものは、たぶんこれなのだ、ただこれだけなのだ。つまり生命の実感を味わうための身を切るような悲しみ。”

”「勇気がないだと!そいつはてめえのほうじゃないか!…そんなに聞きてえんなら言ってやろう…どうしても聞きてえんなら…おれはただ、いいか、もうなにもかも、いやけがさして、ぞっとするんだ!てめえにかぎったことじゃない!…なにもかもさ!…とりわけ愛情ってやつがね!…てめえの愛情も、ほかの奴らの愛情も…てめえにいちゃつかれるたんびにおれがどんな気分になるか言ってやろうか?雪隠でおまんこしてるみてえな気持さ!これでわかったかい、おれの言う意味が?…おれをくっつけとくために、てめえはべたべたしてるつもりか知らねえが、言っとくがこっちにすりゃ、ばかにされたとしきゃ取れないんだ…だけど、てめえはそんなことは気が付きもしねえのさ、そいつがわからねえのは、てめえの根性がいやらしいからさ…気が付きもしねえのさ、自分がどれだけいやらしい女か!…世間の奴らの寝言をおしいただいて満足しとるんだ…そいつをあたりまえのことに考えとるんだ…ご満悦なんだ、ほかの奴から、愛情ほどいいものはない、そいつはだれにだって、いつだって、いいもんだと聞かされて…ところで、おれはくそくらえさ、世間の奴らの愛情なんて!…わかるかい?おれにはもうそんなものは縁がないんだ…連中のねちねちした愛情なんて!…おまえは間が悪かったんさ!…来るのが遅すぎたんだ!俺はもうそいつとは縁が切れたんだ、それだけのことさ!…おめえがヒスを起こしてるのもそのためさ!…これでもまだ、おまんこしたいというんかい?…これだけ聞いても?…それとも、聞こえんふりかい?…そんなことはかまっちゃあおれんてえのかい!…純情そうな面をして、あきれた獣さ…腐った肉が食らいてえのか?愛情風のソースをふりかけてな?…どうだい口当たりは?…おれは真っ平さ!臭わねえとしたら結構なことさ!鼻が詰まってんだろう!あいつでむかつかないたあ、おめえさんたちはよっぽどぼけてんのさ…おまえとおれの違いが知りたいってえのかい?…そうさね、人生観の違いってとこかね…そのへんでご勘弁願えませんかい?」”

しかしこのロバンソンの独白はどのラッパーのライムよりもパンチが効いている。

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