久しぶりの旅③ ヴァン・モリヴァンの建築
カンボジアの丹下健三と言われる建築家ヴァン・モリヴァンの作品を見ることが今回のプノンペン旅行の大きな目的であった。
①独立記念塔
カンボジアの赤土を表しているような赤茶色が目をひくのだが、近寄ってみてみるとディテールの作り物感が拭えず。
大きな通りの交差点に面しているのだが、軸が微妙にずれているのが気になった。どのような理由があるのかはわからない。運転している人にとっては良いシンボルになっているのだろうが、凱旋門のように人々に愛されているとは言えないようだった。
国際様式である近代建築に、土地固有の要素を重ね合わせるというところにヴァンモリヴァンの傑出した点があるのだが、この作品も彼の設計姿勢をストレートに伝えるものと言って構わないだろう。
②最高裁判所
カンボジアの建築は、縦のプロポーションに非常に優れている。
この最高裁判所もご多分に漏れず、素晴らしい縦長のプロポーションを持っている。タワーや装飾などになんの意味があるのかと思うが、国を象徴するものであったと考えると、当時の情熱や希望が伝わってくる。
③王宮のパビリオン
誠に緻密な装飾が施されたパビリオン。
これはホテルに帰って調べ物をするまで彼の作品であることを失念していたものだが、現代の建築家が彼と同じような仕事ができるだろうか。
④チャドウィック劇場
三角のフレームが連続し、半月型の劇場を形作っている。一見すると子供っぽい構成なのだが、ランドスケープの柵の意匠、三角の柱にテーパーが効いているなどのディテールが良かった。中には入れなかったが、スロープと階段の組み合わせが近代建築をよく勉強して手本にしているようだった。コルビジェできな作り方。
⑤オリンピックスタジアム
オリンピックは開催されることはなかったが、今回訪れた際にはSEAゲーム真っ最中でそこら中にセキュリティやきっぷきりの線が敷かれていたがそれらをかいくぐり中に侵入することに成功した。
これは彼の最も代表的な作品だと思うが、東南アジア的な、空調はないが適度な開口から漏れる光と換気で内部環境を作り出すことに成功している稀有な例だ。これを別の場所でやろうとしてもうまくはいかないだろう。
外壁に使われているアルミのパネルがどうなんだろう〜と思っていたが、中にはいるとそのドラマチックな光の演出に驚かされた。素晴らしいデザインだ。
国家のシンボルとなるべくデザインされていた。
⑥外国語大学
左側に見えるのが図書館棟。右側に見えるのが教室棟。この写真には写っていない左側にあるのがフランス語教室棟。下の写真参照。
右側の建物は造形の限りを尽くしており、本当に見ていて楽しい建築なのだが、驚くほど内部空間が貧相だった。その理由は残念ながら外観を優先させすぎたことにあるようだ。拙作の塚田のなかにわ第二期計画でもかなり似た構成のプランをとっており、外観も近いものがあるのだが、外周部に居室を配置すると難しくなるのがファサードのコントロールと、中心部への採光だ。この建築はファサードをコントロールするために外壁側の居室群に良い開口部を設けられず薄暗い。そして四方を完全に囲まれており、廊下の小さな開口とヴォイド上部の小さな開口部からの採光しかないので、3層吹き抜けの空間も非常に薄暗い。隣接する駐輪場と劇場スタイルのオープンスペースのデザインも素晴らしかったばかりに、より一層残念に感じた。
こちらのフランス語教室群はスター・ウォーズの乗り物を彷彿とさせる可愛らしい造形とヴォリュームで、それらが連続する間に熱帯の庭空間が挿入されており非常に美しいのだが、またしても内部空間はお粗末であった。一方でこの写真の反対側にある西側の教室群は工場のようなのこぎり屋根の開口部から入る自然光で満たされた素晴らしい内部空間を持っていた。
@箸休め
川のある風景はいいものだ。学生のときはわからなかったのだが、経験してみないとわからないものはたくさんあるものだ。
中央市場、設計はヴァンモリヴァンではなく、フランス人の建築家なのだが、市場には思えない、幻想的な建物であった。
こういう夏空をみるのも久しぶりであった。手前右側に見える住居のギザギザ屋根も散見されたが歴史的な文脈などはつかめなかった。
@おまけ
石山修武のひろしまハウス
美しかった。神殿のような作りで、素晴らしい空間があった。
しかし、教室のレイアウトなどは最悪とも言える代物で、よくこんなものを設計しておいて学生のことをボロクソ言えたものだなこの野郎石山修武!と思った。
また、この建築の用途に対する建物の大きさを考えるにつけ、建築家の暴走が生んだ傑作と言ってもおおきな間違いはないと言えるだろう。
同じ内容をInstagramでも書いていたので、これ以上は深堀りしないことにする。
以上。
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